昨日は仕事中もずっとABEMAのライブ中継が気になって仕方なかった。画面を横目にキーボードを叩きながら、心は石川県七尾市に飛んでいた。第84期名人戦七番勝負第3局、その第1日目が終了した。
場所は、和倉温泉「日本の宿のと楽」。
2024年元日の能登半島地震で甚大な被害を受けたあの和倉温泉だ。19ある旅館のうち現在営業再開にこぎ着けたのは9旅館。 そのひとつが「のと楽」で、2028年後半の全旅館再開を目指し、地域全体の復興に弾みをつけたいと名人戦を誘致した という。震災の爪痕が残る能登の地で、日本最高峰の頭脳戦が繰り広げられることに、将棋ファンとして胸が熱くなる。
そしてもうひとつの歴史的な文脈がある。和倉温泉での名人戦は2024年の能登半島地震で甚大な被害を受け、 …いや、対局場としての和倉開催は実に44年ぶりの復活でもある。その節目の立会人を務めるのが谷川浩司十七世名人だ。縁もゆかりも深い方がこの場に立ち会うというのが、また感慨深い。
さて対局の話をしよう。
現在の成績は藤井名人の2勝0敗。糸谷九段はここで一矢報いたい、まさに背水の陣で臨む一局だ。
定刻の午前9時、谷川十七世名人が対局開始を告げた。 戦型は相雁木。第1局・第2局が「超スローペース」だったのと打って変わって、正午の昼食休憩までに51手が進む という怒涛の展開となった。
雁木は糸谷九段の得意戦法だ。自分のホームグラウンドに藤井名人を引き込んだ形になる。それに対して藤井名人は真っ向から受けて立った。藤井名人が56分の長考で2二玉と入城すると、糸谷九段も41分考えて4七金と中央に厚みを加えた。
そして中盤の山場。藤井名人が8五桂から桂交換を迫り、糸谷九段は手にした桂馬を2六に放った。 桂馬が宙を舞う、いかにも力戦らしい展開だ。藤井名人は3一玉と慎重に桂馬の利き筋からかわし、糸谷九段が40分考えて次の指し手を封じた。
封じ手は69手目。午後6時32分に糸谷九段が封じて第1日目が終了した。消費時間は糸谷九段3時間17分、藤井名人4時間38分。
解説を務めた北浜健介八段は「8五桂と2六桂は、互いに選択肢が多い中での決断の一手だった。2日目は挑戦者が攻勢を取っていく展開になりそうだ 」と語っている。
能登の復興を見届けるように、最高峰の二人が盤を挟んでいる。藤井名人3連勝か、糸谷九段の反撃ののろしか。
5月8日午前9時、谷川十七世名人の手で封じ手が開封される。目が離せない。
【棋戦情報】
第84期名人戦七番勝負 第3局
対局場:和倉温泉 日本の宿 のと楽(石川県七尾市)
対局日:2026年5月7日・8日
立会人:谷川浩司十七世名人
